いつになったら大人になれるんだろう
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今更なんですけど、00第二期の9話直後のライ刹です
お題サイトさまで見つけた瞬間、これはライルと刹那だと思ったので・・・・
ニールと刹那でもよかったかもしれませんけどね
題名は群青三メートル手前さまよりお借りしました
なぜ、と刹那は思う。なぜこの兄弟は、家族の仇を目の前にしても殺さないでいられるのだろうか。刹那にとって家族の仇とは自分自身なので想定して考えることは難しいが、例えばアリー・アル・サーシェスが目の前にいたのなら、自分は躊躇うことなく引き金を引くだろう。
「なぜ」
疑問はそのまま唇から流れ出た。ん? と目の前を歩いていたロックオンが振り返る。その飄々とした顔は、以前自分に銃を向けた彼の兄とそっくりで、じくりと小さく胸が痛んだ。
「なぜ、俺を殺さない?」
別に殺して欲しいわけではなかった。ただ不思議で仕方がなかったのだ。彼の兄は、銃口を向け当たりはしなかったものの発砲までした。そこまでしたのに、殺さなかった。
「なにお前、死にたいのか?」
「いや、理由を知りたいだけだ」
理由、ねぇ・・・とロックオンは思案顔で頭をかく。ポケットから取り出したタバコを、けれど艦内喫煙ということを思い出したのか顔をしかめて戻す。
「逃げる理由にされたくなかったから、かな」
その台詞は刹那の心を的確に射抜いた。反論しようとして、けれど言葉が出ない。声の出し方を身体が忘れてしまったかのように、刹那は不自然に口をパクパクさせる。
「自己満足で死ぬんじゃねえよ。せめて死ぬんだったら全部終わってからにしろ。お前にはその義務があるだろ。全部やりきって、そうして俺に殺されろ」
自分は逃げたかったのだろうか、と刹那は考える。わからない。逃げ道なんてないと思っていた。けれど確かに、彼に殺されるということは逃げ道になる。全てから解放される、たったひとつの手段でもある。
だけどそれは許されない。変革を促した者として、ソレスタルビーイングのガンダムマイスターとして。途中退場なんて認められない。必ず、生き残って世界を変えなくてはならない。這いつくばろうが辛酸を舐めようが、戦場にでなくてはならない。それは確かに、苦しくてつらくて逃げたくなる。
黙ってしまった刹那に、ロックオンは笑った。
「お前がその命いらねえって言うんなら、俺がもらってやるよ」
ロックオンは右手で銃の形を作り、とん、とそれを刹那の心臓部分に押し当てる。ばぁん、と彼はふざけて笑った。
「はい、死んだ。ってことでお前は俺のものな。嫌だって言っても許さねえし離さねえから」
物騒な台詞をロックオンはいつもの飄々とした顔でぽんぽん言う。顔と台詞のギャップが激しすぎる。話の展開についていけなくて思考ごとフリーズした刹那に、ゆっくりその言葉は浸透していく。
なぜか気持ちが楽になった。ゆっくりと手のひらをみれば、赤く跡がついていた。爪が食い込んで跡がつくくらい、自分でも知らないうちに力が入っていたらしい。
(俺の命が、ロックオンのもの)
まいったな、と思う。これでは勝手に死ねなくなった。無駄に死ぬつもりはないけれど、例えば自爆だとか、皆が生き残るためだったら刹那は命を掛けることもいとわない所存だったのに。
困っているのに、刹那の唇はゆるく弧を描いている。こちらに背を向けて歩き出したロックオンに続きながら、自分でも気付かないうちに刹那は笑っている。
(あの時は、まだ)
殺さないのか、と尋ねた時は、まだ。
(殺されてやる、つもりはなかったのに)
なぜだろう、ほんの数分のやり取り、ただそれだけで。
(ライル・ディランディ、アンタになら)
自分の命が彼のものであることに、刹那は心の底から微笑んだ。
(絶対に口に出すことはしないけれど)
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