いつになったら大人になれるんだろう
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まだ柊ルートに入る前の柊千です。
遥か4は私どのキャラも好きになれました、よ? らなさんが柊気に入らないぃぃぃぃとか叫んでましたけど、私はまあ普通。3の譲に比べりゃ、ね
題名はロストブルーさんよりお借りしました
彼女の髪は稲穂の色に似ている。紅葉が鮮やかな時期によく目にする黄金色の稲穂は、村人にとって厳しい冬を乗り越えるためにもたらされた天からの恵だ。柊はぴょんぴょんと上下に動く黄金を見ながらそんなことを思った。
きょろきょろと辺りを見回して、がっくりと肩を落とした後、きっと棚の上を見やると精一杯手を伸ばして飛び跳ね始めた。時折見えるその顔は真剣そのもので、後ろから近付いた柊に気付いてもいない。
「こちらですか、我が君?」
「あっ」
彼女の視線の先にあった竹簡を手に取ると、驚いている千尋に渡す。本当はもう少しあの顔を眺めていたかったのだけれど、手伝わないで傍観していたことがばれて高感度が下がるのもそれはそれで嫌なのでやめておいた。
(下がるほど好感を持たれているのかは、わかりませんがね)
なにせ千尋にとって柊は己を無理やり戦乱の世へと連れてきた張本人なうえに一時的とは言え敵国に従っていた男なのだ。第一印象からしてそれほど良くなかったであろう。そういえば悲鳴を上げられたような記憶もある。
「我が君?」
目的の竹簡を渡したはずなのに、千尋は上目遣いにこちらを伺っている。柊が話しかけると躊躇いながらも口を開いた。
「あのね、これじゃないの。その隣の・・・・そう、それ! ありがとう、柊」
千尋が指差した竹簡を手に取った柊は不審に思った。これは以前自分が千尋の前で何度が朗読した最初の神子の物語である。繰り返し聞くうちに諳んじることが出来るくらい覚えたのだと嬉しそうにはしゃいでいたのは記憶に新しい。
「我が君は朗読をご所望で?」
「ううん、違うわ」
手渡した竹簡を大切そうに抱きしめて千尋は首を横に振る。古代の文字が使われた竹簡を読むのは至難の業であるはずだ。柊が訳して読み上げなければ最初の一文さえわからないだろうに。
「文字の勉強なの。柊が何度も読んでくれたおかげで、これだけは暗記してるから。今度は原文をそのまま読んで意味を当てはめてみようと思って。王様になってもまだ柊に読んでもらうわけにはいかないでしょう?」
「おや、それでは私が我が君のお側にいる理由がひとつなくなってしまいますね」
残念だ、とおおげさに柊は肩を落とした。王に昔話を朗読して聞かせる軍師などいないだろうし、柊には彼女がこのまま王となった未来の自分がどうなるかは充分承知しているので、半分冗談でそんなことを言った。
そんな理由があろうとなかろうと、全ては既定伝承に定められた未来を進むのだ。彼女の隣に自分がいない未来を。
「嫌ね。それじゃまるで柊は私にお馬鹿なままでいて欲しいって言ってるみたいに聞こえるわ」
「いえ、我が君は今でも充分にご聡明であられます。私ごとき軍師など必要ないくらいに」
「必要よ。私が王様になっても、たくさんたくさん勉強して今よりずっと色んなことがわかるようになっても。私は柊になれないもの」
だから側にいてね、と千尋は笑う。柊がその願いを叶えることは出来ないのと知らないで。この先の未来で自分の側に柊がいるのだと疑いもしないで。
それでいいと柊は思う。彼女はなにも知らなくていい。希望だけを胸に、前を見つめていてくれればいい。王座と引き換えに散っていった男のことなど早く忘れて、一国の主として立派に成長してくれればいい。
(我が君、せめてその胸のどこか片隅に在れれば、私はそれでいいのですよ)
時折、ふとそんな男がいたなと思い出してくれればいい。例えそれが嘘つきで約束を破ってばかりの最低な人だった、という思い出だとしても構わない。
だからせめて、思い出だけは残して逝こう。
思い出だけは残して
(過ぎた日の中にしかいられない私を、どうかお許しください)
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