いつになったら大人になれるんだろう
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P3Pの小話です。ハム子とキタローの話を、キタロー視点で
以前にも書いた、『もしハム子とキタローが対シャドウ用生物兵器だったら』の小話です。重ねて言いますが、厨ニ病設定です
諸注意
●ハム子とキタローの名前は固定です
●ハム子の一人称が違います
●ハム子の口調が違います
●ハム子、性格超悪いです
●全ては私の妄想です
それでも読んでやるって方は、続きからどうぞー
題名はアイロニーさまよりお借りしました
タルタロスから寮の玄関ロビーに戻ってきて、そこでようやくお疲れ様、となる。遠足と同じだと言ったら美鶴先輩あたりに怒られるのだろうけれど、部屋に着くまでがタルタロス探索。決して油断はできない。そういうふうに、作られて教育されたから。
部屋に帰る者、水を飲みに行く者、汗をかいたからと風呂場へ行く者、ここから先は個人の自由だ。もちろん俺は寝るために部屋に行く。時間は午前一時になるかならないか。睡眠不足で倒れるような身体はしていないけど、明日だって普通に学校に行かなくてはいけないことを考えると、睡眠時間は長いほうがいい。こういう時、人間ってめんどくさい、と思う。
「あ、静馬くん、ちょっといい?」
階段を半分くらい登ったところで、後ろからゆかりに呼びとめられる。振り返ると、少し困ったような顔をしたゆかりが手を中途半端に挙げたまま立っていた。
「静馬くん、今日も前線だったじゃない? どこか怪我してない?」
「してない。してたら真っ先に言うから、大丈夫」
「そっか」
ほっとゆかりは胸をなでおろしている。俺はそれを上から見下ろしていた。ゆかりは鋭い。他人の隠し事や秘密を素早く察知する。なぜなら、ゆかり自身も隠し事を抱えているから。でも確証がないから、自分でもよくわからなくて、もやもやした感じになっているんだろうなあ。たぶんそれでいい。他人の秘密なんて暴いたところで気分が悪くなるだけだ。
それを理解したうえで、面白おかしく他人をいじくっている奴が身内にひとり、いたりするんだけどなあ。
「じゃ、おやすみ」
「あ、うん。おやすみ・・・・」
半ば強引に話を切り上げて部屋に戻る。視界の端に釈然としないゆかりの顔が少しだけ残っていたから、あ、失敗したと思った。あいつだったらたぶん、もっと上手くやる。笑顔を振りまけるだけ振りまいて、都合のいい台詞で塗り固めて、そうして肝心なものはなにひとつ残さないで消える。俺には無理だ。社交性とか、そういうのが全くないから。持とうとも思わないし。
いつもより少し遅れて部屋に着いた。シャワーを浴びることはできないから、せめてぱっぱと着替えて、寝てしまおう。明日提出の課題はもう済ませてあるから、これからやるべきことなど、ひとつしかない。
そうして部屋の扉を開けると、ベッドの上に静香が座っていた。なんでいるんだよ、お前。
「帰れ」
「うわ、辛辣な言葉。就寝の挨拶に参上した妹にかけるべき言葉じゃないね」
嘘つけ、と心の中だけで言っておく。面と向かって言ったって、こいつにとっては赤ん坊にデコピンされる程度。そんなんだったら言わない方がいい。面倒だし。
静香はごろんと俺のベッドに寝転がった。今夜は俺の部屋で寝るつもりなのか、こいつ。たまに静香は何の理由もなしに俺の部屋にやってきて、ベッドを占領して一晩過ごしたら自分の部屋に帰っていく。たまにベッド以外も占領される。美鶴先輩が聞いたら「兄妹だから構わないが、少しは自重してくれ。男女で階を区切っている意味がなくなるだろう」と良い顔をしないのは確かだ。
「泊まってくの、お前?」
「いや。帰るよ、今日はね」
「じゃあ帰れよ」
「言われなくても」
腹筋の力だけで上半身を起こした静香は、にぃ、と唇をつりあげて盛大に微笑んだ。
「左わき腹、それから右の太ももの内側」
「・・・・・・」
「馬鹿だね、君は」
「うっさい」
静香に指摘された箇所がずきんとうずく。痛い。当たり前だ。きちんと見なかったけど、きっと青あざになっているに違いない。面倒だな。ゆかりや順平にバレないように気を使うのが、すごく面倒だ。
「痛いのが嫌なら引っ込んでいればいいじゃないか。君、もしかしてマゾヒストかい? 実の兄にそんな特殊な性癖があったなんて。ぼくは実に悲しいよ、静馬」
「マゾじゃねえよ。お前なんて超ド級のサディストのくせに」
「まあ、否定はしないね」
しろよ否定。開き直った奴の相手ほどめんどくさいものはない。頭痛がしてきた。加えて脇腹と太ももの鈍痛。痛みの三重奏を甘んじて受け入れている俺、マゾヒストなのかもしれないと少しだけ思った。あくまで、ほんの少しだけ。
音もなく立ち上がった静香が、俺の前に立つ。俺より背が低くて細い身体しているくせに、真っ向から俺を見る。哂いながら俺を見る。
「ゆかりや風花が知ったら、怒るし泣くだろうね」
「お前は言わないだろ」
「まあね。教えてあげる義理もない」
俺の身体の傷痕がいくつあるのかなんて、俺にもわからない。きっと静香も知らない。けれど静香は、俺が故意に傷を隠しているのを知っている。知っているけれど、何もしない。ただ哂うだけだ。
俺が前線に出る、その選択は間違っていないと思う。俺は身体が丈夫だし、怪我をしたとしても2、3日で回復する。静香は身体能力じゃなくて精神とか脳とかそっち方面に特化しているわけだから、俺みたいに怪我の治りが早いわけじゃない。他の奴らは言うまでもなく。
やっぱり俺が、先陣切っていくほうが、どう考えたって一番いい選択じゃないか。
「馬鹿だな。そういう話じゃないんだよ、静馬」
俺の頭を読んだかのように、静香が哂った。
「君の最善が他人の最善ではない場合があるんだ。静馬」
静香の右腕が動いたので、反射的に俺は掴んで止めた。誰だって、自分の喉元むかってすごい速さで動かされたら止めると思う。手を掴んでもなお静香は力を入れてくるので、俺も抵抗する。俺の場合、加減を考えないといかに静香とはいえ骨にひびぐらい入れかねないんだけど。
「ぼくは君の、そういうところが反吐が出るくらい嫌いだよ」
本当に反吐でも吐き捨てるかのように言う癖に、至近距離にある静香の顔は笑っている。にぃ、と唇の端を吊り上げたその隙間に犬歯が見えて、獣のようだと思った。首から上だけになっても敵の首を噛み千切る、獰猛な獣。
「自己犠牲が美しいのは創作の世界の中だけさ。自己満足とも言い換えられるその精神の、どこが美しいと言うんだい? 静馬、君は確かに頑丈だけれどね――――――限界がないというわけでは、ないんだよ」
勝手に壊れるのは許さないと、静香が睨む。
勝手に壊れるつもりはないと、俺は応える。
俺が手を離すと、静香はさっと踵を返した。自分の部屋に戻るのだろう。俺ほどじゃないが、あいつも部活に生徒会に同好会と、なにかと忙しい身の上だ。時間は金より貴重だと知っている。
「おやすみ、静馬」
「おやすみ」
律義なのか嫌味なのか、本当に就寝の挨拶をして静香は出て行った。それを見届けてから俺はベッドに倒れ込む。傷が痛み、どっと疲労が襲ってきた。じくじくと痛む傷は睡魔を遠ざける。痛い。辛い。苦しい。やはり痛いのは嫌いだと再認識する。俺はマゾヒストなんかじゃない。
限界があると静香は言っていた。そんなこと知っている。水を注いで、溢れないコップなどこの世にはない。永遠なんてどこにもない。いつかどこかから、俺は壊れていくだろう。明日か、明後日か。そんなことわからない。だから俺は自分に言い聞かせる。まだ大丈夫。まだ限界はやってきていない、と。
唱え続ける。明日は大丈夫。明日は大丈夫、と
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