いつになったら大人になれるんだろう
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P3Pの小話です。ハム子と沙織の話
以前らなさんに話した、『もしハム子とキタローが対シャドウ用生物兵器だったら』の小話です。だってアイギスみたいなのがいるなら、いてもいいんだと思ったんです。厨ニ病設定です。
いつかどこかで本格的書きたいと思っています。
諸注意
●ハム子の一人称が違います
●ハム子の性格がだいぶ違います。臨也(デュラララ)やアルバロ(ワンド)っぽくなっています
●全ては私の妄想です
いけるぜ、って方は続きからどうぞ。
お題は選択式御題さんよりお借りしました。
「静香ちゃんって怪我が多いのね」
イスに座って保健室の消毒液や絆創膏を失敬している少女は、沙織の言葉を聞いて「そうかもしれないね」と苦笑した。その頬にある、真新しい絆創膏越しにうっすらと見えた血の色が、沙織にそんな台詞を吐かせたのかもしれない。
「運動部だからなのかしら。でも、同じ部の岩崎さんはそんなことないし」
静香は答えない。ただ微笑みながら、目を細めながら、沙織の言葉を聞いている。楽しそうに、可笑しそうに。
「それに、バレーって室内競技でしょう。そんなふうに頬に切り傷なんて作るのかしら」
以前静香が取れかけた絆創膏を取り替えている時に垣間見えた、まるで鋭利な刃物か何かで斬られたような、綺麗な一線の傷。そんなもの、日常生活で普通に負うものではない。
じっと静香を見つめると、彼女はどこか狐を連想させるような微笑みを保ったまま、楽しそうに口を開いた。
「いいね、そこでぼくに訊くんだ? 黙って『部活動で負った怪我』ということにしておけば、全て丸く収まるとは思わないかい?」
「静香ちゃんが私の立場だったら、そんなふうに思えるの?」
「全然」
むしろ暴きたくて仕方なくなる、と言う彼女に、なら仕方ないじゃない、と沙織は肩をすくめた。沙織は聞き分け
の良い子供だと思われがちだが、実際はそうでもない。そのことを静香だって知っている。同じように、沙織は静香がただの頭が良くて運動も出来る綺麗で可愛い子ではないことを、知っている。
真正面のイスに座って、静香はニコニコと笑みを崩さずにポケットに失敬した絆創膏を押し込んだ。一応学校の備品なので勝手に持ち出すことは禁じられているのだけれど、そんなもの建前でしかなく、普段からほいほいと多数の生徒が持ち出している。
「それで、ぼくに傷が多い、それだけで終わらせるのかい?」
「理由を尋ねたら教えてくれるのかしら。でも、そんな素直な子じゃないでしょう、静香ちゃんは」
「そんなことはないよ。沙織がなにか、面白い話でもしてくれたら、教えてあげないこともない。ギブアンドテイクというやつさ」
その言葉に沙織は少し考え込んだ。彼女のことだから、面白い話、ではなくて面白い質問、でも構わないのだろう。しかし沙織には、彼女が愉快に思うような話に心当たりがない。彼女は些細なことを面白がったり、逆に皆が笑うようなジョークでは笑わなかったり、よくわからない。
結局沙織にできるのは、変哲もない、以前から不思議に思っていた疑問をぶつけることだけだ。
「それ、痛くないの?」
沙織が指差したのは、静香の頬にある絆創膏、その下の傷。静香は一瞬不意を衝かれたような顔をして、しかしすぐにそれが幻だったのかと錯覚するぐらいの速さで、いつもの飄々とした笑みに戻った。
「さて、どうだろう? 痛覚なんて疼痛物質による科学的な反応だ。まあ、確かにあったら色々と便利だろうね」
「質問の答えになってないわ。私は痛いかどうか訊いているのに」
「じゃあ簡潔に答えるけど、痛かったよ」
昨日まではなかった傷がもう過去形のものになっている。そのあっさりした態度を彼女らしいと思っていると、不意に静香が苦笑しながら「そんな顔をするもんじゃないよ」と手を伸ばして沙織の眉間をつついた。知らずのうちに、そこにはくっきりと皺がよっている。
「これでいいんだよ、沙織。君とぼくとでは、痛みの意味が違う」
「そういうものなのかしら・・・・・・・・・・・そうね、そういうものなのかもしれないね」
本心では納得しかねていたが、沙織は自身を騙すように無理矢理言葉を繋げた。納得したわけではない。けれど理解はした。自分と彼女では、価値観に大きすぎる差があり、壁があり、溝がある。それはこの先どれだけ彼女と過ごしても、一生平行の線のまま交わることのないものだ。
けれど、受け入れる事は出来る。
納得しないまま、共感しないまま、それでも隣にいる事は出来る。
それでいいと沙織は思う。決して交わる事のないものを、納得できない物を、どうにかしようとするのは無駄というものだし、間違っている。それになりより、そんな努力を静香は期待していないし、欲していない。きっと静香は沙織がそんなことを欠片でも口にしたり行動に移したりしたら、今と同じような、けれど背筋がぞっとするような笑顔で、「興ざめだよ」と言うのだろう。
そんな沙織の心を読んだのかはしらないが、唐突に静香が笑い声を上げた。
「いいね、沙織のそういうところ、ぼくはかなり好きだな。やっぱりこの学校に来てよかった。いろいろな人がいるから、楽しいし、なにより飽きない」
沙織が何か言おうと口を開いた瞬間、スピーカーからノイズ雑じりのチャイムが沙織の邪魔をした。部活動や委員会の時間終了を告げるチャイムで、仕事らしいことなどほとんどしていない委員会活動も、これで終了だ。再び口を開くのもなんだが億劫に感じて、沙織は黙って日誌に目を向けた。
「ああ、終わりだね。日誌はどうする?」
「私が書いておくわ」
帰ってもいいよ、という意味合いで日誌を手に取れば、立ち上がった静香は「ありがとう」と綺麗に微笑んだ。なるほど、男子からの人気が高いわけである。同性の沙織がうっかり見惚れるくらい綺麗な笑顔だった。
立ち上がって鞄を手にした静香は、そこから取り出したケータイの画面を見て軽く驚いたような表情になった。メールかなにかだろうが、気になったのでなんてことないふりをして「誰から?」と尋ねた。
「静馬から。珍しいな、呼び出しなんて」
彼女の全く似ていない双子の兄の顔を脳裏に浮かべて、そういえばそうだなと沙織は思った。ボクシング部の先輩だとか留学生の外国人だとか他にも様々な人と行動も共にしている静香が、彼女の兄と下校を共にしている場面はそう見たことがない。
何かを考え込むような顔をした静香だが、すぐに踵を返して出口へと向かった。その背中にさようならと声をかけようと思った瞬間、くるりと静香が顔だけこちらを向く。にぃ、と唇の端をつり上げて、笑いながら。
「そうそう、約束だしね、ひとつだけ教えてあげるよ」
可笑しそうに、冒しそうに、侵しそうに、犯しそうに、笑いながら。
「この傷はね、痛いのも苦しいのも大っ嫌いなくせに他人が怪我をするよりはマシかなとか考えている、自己犠牲の愛情に溢れた不甲斐ない兄をかばった時についたものだよ」
その言葉がどんな意味を持つのか、沙織がはっと我にかえって尋ねようとした時にはすでに、保健室内はおろか廊下にすら、あの紅い瞳を細めて笑っている少女の姿はなかった。
あの人は幼子のよう求めてばかりいるくせに壊し方しか 知らない
(しかもそのことに気付いてもいないんだから、どうしようもない、ひと)
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