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いつになったら大人になれるんだろう

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2010/07/30 (Fri)                  頭蓋の窪んだ目は君を見ない

死ねない帝人くんシリーズで、帝人と誰かさん

CPいうよりも+に近い



一文が長くて読みにくいので、サイトに再録した時に読んだほうがいいかもしれません




お題は歌舞伎さんよりお借りしました。








人を刺す感触は(どこを殴るかにもよるけれど)たいてい酷く気持ち悪くて、早く忘れたいのに手にはべりついてなかなか取れない。血痕とかも同じだ。あれ、お湯めちゃくちゃしっかり洗わないと落ちないとことかが、なんか、似てる。そう思うのは多分ぼくだけだけれど。


「出てきていいよ、青葉くん」


大きな楠木の影から、おずおずと青葉くんが顔を出した。出てきていいよって言ったのに、用心深く周囲を見渡している。なんで、って聞いたらあぶないですから、と青葉くんは応えた。


「まだそのあたりにかくれてるかもしれないでしょう」


「大丈夫だよ、ほら」


ぼくは物陰に隠れて旅人を待ち伏せた挙句木の棒や刃物などで襲って金品(時には命も)を奪っていく集団のひとりを足先でつついた。がっくりと事切れている男(だったもの)はうんともすんとも言わないし、ぴくりとも動かない。動いたら嫌だけど。動かなくさせたのはもっと嫌だったけど。


「なんですか、このひとたち」


「さあ? 山賊かな。でもそんな噂は聞かないし」


今さっき発った村は小さな集落だった。近くの山道で山賊が出るのならば、娯楽に飢えている村落ではあっというまに噂になる。人目を避けているとはいえ、そーゆー噂は聞き逃さないように注意していた。ぼくはともかく、青葉くんは死んでしまう危険がある。この場合、彼らが質素な身なりをした子供と幼児の二人連れを見逃してくれるような人だという希望は投げ捨てたほうがいい。


ぼくの足元に転がっている元人間は全部で五つ。一番遠くに転がっているのが、いきなり後ろからぼくの後頭部をスイカ割りよろしく棍棒で叩き割るという行動を取った男だ。頭蓋骨がべっこりと陥没し中身を派手に洩らしたぼくの頭部はそれほどの間をおかずに再生して男たちを驚かせた。とりあえず素早く事態を飲み込んで即足手まといにならないように逃げてくれた青葉くんに感謝しながら、ぼくは逃げ惑う男たちを懐の小刀を使って過去形にする作業を開始した。それほど時間はかからなかったのは、さして抵抗されなかったこととぼくがこんな出来事に慣れていたからだろう。嫌な話だけれど。


「じゃ、青葉くんはそっちお願いね。わからないものがあったらぼくに見せて」


「はい」


ミイラ取りがミイラとはこのことだ。ぼくらはちゃっちゃと男たちの持ち物を物色する。それほど期待はしていないけれど、まっとうな職に就けない者としては、こーゆー臨時収入もけっこう重要だったりする。


お天道様がしかめっ面しそうなその作業を、ぼくらはお月様監修のもとせっせと励む。収穫はそこそこの金銭がはいったサイフがふたつ。子供ふたりの旅銀としては最高だ。見つけたのは青葉くん。えらいえらいと頭を撫でると、嬉しそうに笑った。うん、死体が転がる山道であっても、この子の笑顔には癒される。


「みかどさん、あたま、だいじょうぶですか?」


それはぼくの知能がアレということを示しているのだろうか。


「いたそうでしたよ」


「まあね」


赤銅色に汚れてしまった着物からまだそれほど汚れていない着物へ着替えるために移動した木の影に隠れながら、ぼくは短く応える。残念ながらぼくの身体に痛覚がしっかり残ってしまったので、頭を割られたのはそれなりに痛かったりする。


萌葱色の着物の裾を、青葉くんの紅葉のような手が握った。なあに、と傾げるといたいですか、と再度問われる。ぼくを仰ぎ見る青葉くんの目は少しだけ怖かった。


「痛いのは嫌だね」


「そうですね」


「だから怪我には気をつけてね、青葉くん」


「みかどさんこそ」


子供特有の少し高い、舌足らずな声。


「いつもけがばっかり」


「・・・・・そうだね」


怪我に気をつけて、なんてぼくが言える台詞じゃない。


「きをつけてください」


ぼく着物の裾を握り締める青葉くんの手を着物から自分の手に取り替えて、ぼくらは山道を歩く。日中が日差しが暑くて青葉くんには大変なので、この時期はもっぱら、夜に歩くのが恒例となっている。


「みかどさんがいたいと、おれもいたいですから」


「それは違うよ、青葉くん」


変なの、とぼくは笑った。


「ぼくが痛くても、きみは痛くないよ」


別にぼくは青葉くんと痛覚を共有しているわけではないし。


「でも」


青葉くんは怒ったような、泣きそうな顔をしている。器用な子だ。感情豊かだね、と褒めればいいのか、ふたつのことをいっぺんにするんじゃありません、と咎めればいいのか。


「なんだか、すごく、嫌なんです」


この子はいつか、ぼくが死んだら泣くような子なんだろうな。少しだけ罪悪感と哀しさがぼくの胸をぐちゃぐちゃにした。できれば泣き顔は見たくないから、泣かないで欲しい。ぼくの我がままだけれど。


俯く青葉くんの手を握り締めて、ぼくらはとりとめのない話をしながら山道を歩いた。「月が綺麗だね」「みかどさんがそうおもうのなら」「お腹すかない?」「みかどさんがすいてないなら、すいてません」「けっこう歩いたけど、疲れてない?」「みかどさんといっしょならだいじょうぶです」


「青葉くんって変な子だね」


青葉は嬉しそうに笑った。


「みかどさんがそだてたから」

 

 






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