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『蛟/堂/報復/録』って本を知っている方ははたしてどれだけいらっしゃるんでしょうか? その中で名島瑠璃也×岡山太郎に萌えた方はどれだけいらっしゃるんでしょうか?
ってなわけで瑠璃也×太郎♀です。初っ端から女体化とか香邑ブースト全開です☆
知らない方はこれを機に『蛟/堂/報復/録』を読んでくださると嬉しいです。この本、何が好きってまあ設定も好きなんですが、作中での太郎の可愛がられっぷりです。公式で何人もの人からナチュラルに『太郎ちゃん』とか『可愛い太郎』とか言われるってどんだけ私のツボをつくのか。けしからんもっとやれ状態です
今のところ5巻まで出ているみたいですが、香邑は4巻までしか読んでいません。なので色々と捏造してますが、そこはご都合主義ということでスルーしてください
・・・・・・そういえば蛟堂シリーズ知らない友人(でも表紙は見せた)から、瑠璃也×太郎を書き上げたら見せろって言われてたな・・・・・・・まあスルーでいいか
題名は風雅 さまよりお借りしました
店名を知らなければ外装を見た全員がアンティークショップかなにかだと思うだろう幻影書房の店内で、ぼんやりとほのかに発光するアンティーク・ランプを意味もなく見つめていた岡山太郎は恐る恐る、ちらり、と背後に目をやって、太郎がこの店にやってきてからずっと文字通り口をへの字に曲げていかにも『気分を害しています』といった表情でこちらを睨みつけている名島瑠璃也の姿を確認して、いつもはへらへら笑っているはずの彼にしては珍しい眉間のしわを視界に納めて、なにやら面倒事の気配を感じて、小さくため息をついた。
「瑠璃也、僕だって暇じゃないんだ。早いところ叔父さんに頼まれた本を買って帰らないと、僕がいない間にお客さんが来るかもしれない」
だからさっさと、君が不機嫌な理由を教えてくれ。仮にも恋人と呼んで差し支えない関係を築いている男への、開口一番がこれではあまりにも喧嘩腰でよろしくないかと考えたが、そうは言っていられないほど、太郎が瑠璃也の態度に腹を立てているのも確かだった。
「心当たりは本当にない? 太郎ちゃん」
「少なくともここ最近は。昔の喧嘩だって、かたがついていないのはないはずだし」
まあ彼とも短くない付き合いだから、太郎が忘れているいさかいのひとつやふたつあるかもしれないが、それでも彼がここまで不機嫌になるほどの心当たりはない。太郎が神妙に頷くと、瑠璃也はよりいっそう眉間のしわを深くした。
「丑雄って人が」
彼の口から彼が知るはずもない人名がさらりと出てきたことに驚いた太郎が、眼鏡の奥の瞳をきょとんと瞬かせる暇もなく。
「太郎ちゃんの初恋の人って、本当?」
「――――――――――――――――――――――っ!?」
両手でいじくっていたオルゴールをうっかり手のひらから滑らせて、それについている学生の身である太郎に大ダメージを与える値札の数値を思い出してすばやくオルゴールをキャッチしてから、太郎は喉を潰さんばかりの勢いで叫んだ。
「誰!? 誰から訊いたの!? ていうか絶対辰史叔父さんだろ! いや待て秋寅叔父さんって可能性もなくはないのか・・・・・・でも絶対辰史叔父さんだ!」
身内の情事を面白おかしく吹聴する可能性としてはどっちもどっちなのだが、あちこちふらついているうえに瑠璃也とは面識がないはずの秋寅よりは、すぐ隣に住んでいて瑠璃也と顔見知りの辰史のほうが可能性は高い。
(サイテーです、叔父さん・・・・)
ぎゅっと怒りで握りこぶしを作る。今は外出中で留守にしている辰史だが、帰ってきたら絶対に一言何か言ってやろうと太郎は心に決めた。彼に握られている弱みはひとつやふたつではないが、よりにもよって一番話してはいけないネタを一番話してはいけない人に話している。この悪意に満ちた組み合わせはわざとに違いない。
「瑠璃也、そんなまだ中学にも上がっていないときのネタを引っ張りだされたって」
「あ、否定しないってことは本当なんだ」
「っ!」
鋭い切り返しに太郎は怯む。なんとか弁解しようと口を開くが、太郎にはどうやっても、過去の事実を否定することができなかった。例えそれで瑠璃也の機嫌をますます損ねることになったとしても、太郎には無理だった。
その雰囲気を察したのだろう、瑠璃也は眉間のしわを消すと、それでもまだ不機嫌そうな低い声で「丑雄ってだれ」と尋ねた。
「辰史さんはあんな奴のどこがいいんだって言ってたけど」
「あのふたりは仲が悪いんだよ。従兄弟同士なんだから少しは歩み寄ればいいのに」
従兄弟同士、の言葉に瑠璃也の瞳が大きく見開かれる。さすがに身内とは予想していなかったらしい瑠璃也が、どこかばつが悪そうな顔でそっぽを向いた。それが彼なりの反省と知っているから、太郎も責めるような言葉を言うことはせず、十年以上も昔の記憶を脳の底から引っ張り出した。
太郎の母親には三人もの妹弟がいるが、結婚して家庭を築いているのは太郎の母である初子だけだ。次女の卯月は恐山でいたこをやっているし、長男の秋寅は調薬師となってあっちこっちふらつきながら色んな女性に声をかけているらしいが、結果は芳しくないという。末っ子の辰史にいたってはちらつくのは女性の影ではなく紙幣である。そんな子供とは無縁の叔父叔母は何かにつけて太郎太郎と幼子であった太郎を可愛がってくれた。辰史はからかいも含んでいた可能性もなきにしはあらずだが、それも彼なりの愛情表現だろうと、太郎は前向きに考えることにしている。
そんな叔父叔母に囲まれながらも、太郎が最も懐いたのが彼らの従兄にあたる丑雄だ。彼が本家に寄ることはあまりなかったし、寄れば寄ったで辰史と喧嘩するのだが、それでも太郎は丑雄を慕った。彼が初恋というのも間違っているわけではない。しかしその恋情は、例えるのならまだ男を知らない幼児が実父を将来の伴侶とすると言う、その感情に近い。
あるいは夢見がちな少女が、テレビの中のアイドルに焦がれるような。あの時の感情を否定するわけではないが、それでも血のつながった身内に思慕の念を募らせていたと白状することは少々、太郎には気恥ずかしい事柄である。
「瑠璃也だって、僕が初恋ってわけじゃないんだろう」
「そりゃまあ、そうだけどさ」
出会った高校生の頃はすでにお互い初恋はとっくの昔に済ませた身だった。まあ紆余曲折あって彼氏彼女となったが、なんとなく初恋に関しては話さないことが暗黙の了解になっていた、と太郎は感じていたのだが。
「瑠璃也だけ僕を責めるのはずるい」
形勢逆転とばかりに太郎は瑠璃也を睨む。しかし太郎は自分の彼氏が女の子たちから『悪くはないけどいいお友達止まりで終わる人』と評価されていることを知っているので、あくまで気分を害したというポーズだけとって浮気を疑うようなことはしない。
思えば、己の初恋は酷く特殊なものだった。三輪家の長女である初子には三輪家特有の才能は一切見られなかったが、娘である太郎はかろうじて思念を視ることができた。しかし知識はあるものの父母にはその対処方法が分からず、太郎も叔父叔母のように祓うことなどできなかったから、いつも太郎は思念を視たと泣いては叔父叔母に宥められていた。その役を最も多く買っていたのは、おそらく丑雄だ。
泣きじゃくる太郎を軽やかに抱き上げて、視えた思念についてこと細かく話させる。聞き終わるといつも丑雄は難しい顔をして、太郎の頭を撫でながら忘れろと小さく囁くのだ。理由など話してはくれない。ただ、丑雄に宥められたその晩だけは、普段より寝つきが良かったのだと母が話してくれたのをぼんやりと覚えている。
丑雄が何をしたのか、太郎は知らない。今ではもう思念を視ただけで泣くようなことはなくなったから、叔父叔母に泣きつくこともない。あれはなに、と尋ねてもまだ早いとはぐらかされるようなこともない。その変化を。太郎は嫌だと思わないけれど。
奇妙な恋だった。特殊な思慕だった。太郎が思念を視ることさえなければ、きっと芽吹くこともなかったはずの感情だった。憧れにも近い、拙い恋だった。
もう何年も昔に、しぼんで消えてしまった恋情だった。
「僕の初恋は、こうして簡単に振り返られるようなモノじゃない」
独り言に近い囁きに、瑠璃也が怪訝な顔をする。瑠璃也は太郎の母方の実家が霊媒で栄えた家だと知っているが、その実態についてはほとんどなにも知らない。太郎も辰史も、進んで話そうとはしない。父と仲が悪い辰史はもちろん、太郎も自分に良くしてくれた祖母や叔父叔母を除いた本家に良い印象を持っていない。
なんの才能も持たずに産まれてきた母を詰る本家の老人たちが、太郎は幼い頃から嫌いだった。母はいわゆる天然な人だったから素直に自分の無能を認め、こればかりはどうしようもないといつも微笑んでいた。己の初恋を思い返すということは、どうしても母に影から後ろ指を立てていた、力ばかりに固執した醜い老人たちのいる場所を思い返すことになる。それはできるなら一生触れたくない、小さくて深い太郎の傷だ。
「それにほら、今僕が立っているのは瑠璃也の隣だ。それで満足しておこうよ」
「わかってるんだけど、気に入らないもんは気に入らない」
どうせその丑雄って人、やたら顔良いんだろ? 唸るような瑠璃也の質問に、太郎は脳内で件の身内の顔を思い浮かべる。眉目秀麗な身内に囲まれていたうえに自身もそれなりの容姿をしているせいで美的感覚が少々人と異なる太郎は、美男子と言っても差し支えない丑雄を「フツーの顔だよ」と表現した。
「特にずば抜けてかっこいいってわけじゃ・・・・あ、でも髪を伸ばしたら辰史叔父さんに似ている」
「辰史さんに似てるってとこで、十分すぎるほど美形じゃん・・・・・」
がっくりとうなだれる瑠璃也に、そんなものかと太郎は首を傾げる。身内の顔の良さなど、気にしたところでどうにもならない。それに顔の良さだけが男の全てではないと、最も身近な身内から身をもって痛感している太郎には、瑠璃也の顔が平々凡々だろうが丑雄が美形だろうが、どうでもいいことなのだ。
「それで、何を言ったら君は機嫌を直すのさ?」
いつまでもへそを曲げている瑠璃也の、はねた襟足を引っ張りながら太郎は問う。いつまでも何の結果をもたらさない押し問答はいいかげんうんざりしてきたところだ。
「俺が太郎の一番であれば、それでいい」
「それは無理」
ずばりと一刀両断すると、瑠璃也は再びむすっとした表情になる。一番だなんて、そんな不安定な約束はできなかった。この先何が起こるか分からないからこそ、簡単に一番だなんて言えない。
「瑠璃也が僕の一番だとは言えないけど、僕が立つ場所はずっと瑠璃也の隣だよ。これは、明言できる」
そしてそのまま、彼の隣が自分の死に場所になればいい。そう思って、太郎は目を伏せた。母方の実家であるあの家はもう、太郎が帰る場所ではない。故郷と言うにはあまりにも良い思い出と悪い思い出のありすぎるあの場所よりは、いつだって自分が心から笑える彼の隣に骨を埋めたいのだ。
さらば郷愁、私は死に場所を決めました