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いつになったら大人になれるんだろう

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2011/04/18 (Mon)                  空が綺麗だと君は言った


こんばんは生きています元気ですたぶん香邑です



たぶんというか十中八九私のやり方がだめだったんでしょうけど、PCさん(いや、この場合は無線LANさんか)がネットにつないでくれませんでした。ていうか今も二回に一回は『表示できません』ってなります。私は何か無線LANに嫌われるようなことをしたでしょうか? 内蓋がうまくはまらないからって力づくで無理やりしめたからですか?



とりあえず無線LANさまがご機嫌な今のうちに、超素敵なもらいものをいただいたのでお礼に行きつつ、自分の萌えを発散させようと思います


というわけで、『テイルズ オブ ザ ワールド  レディアント マイソロジー3』の小話です。主人公とユーリの話。CP要素は全く含みません


香邑はテイルズだったらアシュルク(アビズ)かフレユリ(ヴェスペリア)が好きです。

いつかマイソロ2の設定でアシュルクとか書いてみたいです。でも2だとフレンいないんですよね・・・・・・



お題はカカリア さまからお借りしました









ベッドに横たわる顔は青白く、お世辞でも冗談でも健康そうだとは言えない。己の髪とよく似た、しかし濃紺から徐々に紫に変わっていくという不思議な髪を持つ子供の額に手を置いて、ユーリは数時間前にはあったはずの熱がすっかり引いていることに安堵した。


ラザリス封印の術式の反動を受けてから、この子供の体調は目に見えて悪くなった。今日だって、デスピーを数匹討伐してくれという、これまで積んできた経験を考えればそんなに難しい依頼ではなかったはずなのに、アンジュに依頼達成を告げた途端、フラフラと倒れるようにして自室のベッドへと直行していった。そして発熱。しかもけっこう高熱だったから、この子供を特に慕っているカノンノなどは半泣き状態だった。


おとぎ話の中にしか存在していないと思っていた、世界樹のいとし子。世界を救うディセンダー。大層な肩書を持つくせに、その体はユーリよりも片手の数以上年下の子供でしかない。


ユーリたちとは違う次元で生きているこの子供の目には、世界はどう映っているのだろうか。


そんなことを考えた瞬間、ゆるゆるとその瞳が開いた。硝子玉のような透明な瞳がぼんやりとユーリを見返し、こてんと首をかしげる。


「よぉ、目が覚めたか?」


「うー?」


ゆっくりと上半身を起こしてあたりを見回し、そこが自分の部屋だとわかって安堵したのか、再びぼすんとベッドに倒れこんだ。その動作が酷く幼くて、戦闘中の鬼気迫る迫力との差にユーリはたじろぐ。


「なんか食うか? お前さんがレシピを増やしてきてくれたおかげで、いろんなもんが食えるようになったしな」


「プリン! ユーリの、プリン、おいしい!」


ぱぁぁと一気に顔を明るくし、舌足らずな口調で嬉しそうに言う。極限にまで弱まった世界樹に作られたこの子供は、ハロルドやリタ曰く、生成途中でやむなく産み落とされたらしい。だから身体も心も成長しきっておらず、動作のひとつひとつが幼く、拙い。


「はいはい、プリンな。生クリームはどうする?」


「たくさん!」


「りょーかい」


くしゃりとその短い髪をなでて、はしゃいだせいで乱れた上掛けを直してやる。珍しく大人しい子供はにこにこと嬉しそうにユーリを見上げている。己が作る菓子ひとつでここまで幸せそうにするなんて、安い幸せだとユーリは笑う。


けれど触れた髪があまりにも柔らかくて、そこに未発達な子供の色を見てしまったから、ユーリはぐっと下唇をかみしめた。この子供が背負っているものの重さが、ユーリの心を揺らす。


「捨てたいと、思わないのか? 好きで産まれたわけでもない。世界を救うためだけに作られて、用が終われば吸収されて消える。悲しいな、お前」


言っても詮無きことだとわかっているのに、それでもユーリは言わずにはいられなかった。きょとんとユーリを見上げる子供は、きっとユーリの言葉の意味を、十分の一も理解していないだろう。悲しいとか辛いとか、思わないのだ。それくらいこの子供の精神は幼く、純粋で、まぶしいくらいまっすぐだ。ユーリならば耐えきれないその人生を、恨みもせず呪いもせず、ただ当然のように受け入れて。


なにが予言だと、ユーリは毒づく。そんなもので人の一生が決まってたまるものか。自分たちはこの子供に押しつけたのだ。世界を救うという、失敗など許されない大仕事を。我が身かわいさに、この小さな身体に全てをゆだねたのだ。

 

 
――――それなのにこの子供は、弱音ひとつ、洩らすこともなく。
 
 

「うー、ぼく、ここ、すき」


たどたどしく、自分の中にある感情を、思いを、自分が持つ全ての手段で伝えようと、子供は四苦八苦する。


「カノンノ、が、ぼくをくれた。ぼくを『静歌』、くれた。だから、カノンノ、すき。あとみんなも、すき。やさしいし、あったかいから。ね、ぼく、ここ、すき。だからここ、きえる、やだ。みんな、しぬ、やだ」


あとね、あとね、と子供は急いで口を開く。決して饒舌だとは言えず、どちらかといえば会話は苦手な子供だから、余計に忙しなく感じる。


「ぼく、かなしい、ちがう。ぼく、たくさん、なやむ。わからないこと、たくさん。でも、かなしいは、ない」


そこで子供は勢いよく両手を上げる。まるで自分の中にある幸福を、周囲をへと飛び散らそうとするかのように。


「ぼく、産まれてきて、嬉しい!」


それは出産直後の赤子の、産声によく似た叫びだった。産まれることができて嬉しいのだと、これからの人生が楽しみでしかたないのだと、その感謝を知らせるために赤子は泣くのだと、遠い昔に誰かが言っていた。その叫びに、よく似ていた。


ユーリはそっと目元を和らげて、ニコニコ笑う子供を見やる。その顔色は優れなくとも、不安や翳りなど一欠片も見られない。この状況でそんなことが言えるからディセンダーなのか、それともディセンダーだからそんなことが言えるのか。どちらでも大差ないと、ユーリは思う。


ユーリは苦笑すると、ぽん、と子供の小さな頭に自信の手を置いた。


「悪かったな、変なこと聞いちまって。詫びに生クリームはいつもの二倍にしといてやるよ。カノンノには秘密だぜ? 俺がお前に甘いものばかり食わせるって、ロックスの次に叱られてんだから」


「うー、秘密!」


誰から教わったのか、左手を額の前で構えるという、いわゆる敬礼をしてみせた子供に苦笑しながら、ユーリは食堂へ向かうべく踵を返した。その手がドアノブへかかった瞬間、背後から朗らかな声が飛んでくる。


「ユーリ、幸せ?」


その問いかけがあまりにも飾り気のないものだったから、ユーリは言葉を失った。


幸せかとこんなにもまっすぐに自分に問うた人間が、今までいただろうか。それを考えるついでにユーリは自分の長くも短くもない人生を振り返る。親は知らない。これと選んだ恋人も、血を分けた子供もいない。決して穏やかという人生ではなかった。辛いことと楽しいこと、どちらが多かったのかはわからない。


「――――楽しいぜ、生きているってのは。俺はそう思う」


だから少しだけ、ずるい回答をした。自分の考えを素直に口に出せるのは子供の特権で、所詮ユーリはちょっとだけ汚れた大人だからこんな質問もまじめに回答するのは小っ恥ずかしくて仕方がない。ユーリはもう子供ではないから。子供では、いられないから。




空が綺だと君は言った 
 


(たとえそれが酷い嵐の空でも、雨粒に打たれながらお前はそう笑うんだろうな)





 

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